カルビの王様 サンカクバラを知らずして肉を語るなかれ

さてナカバラ、アトバラに続き、今回はサンカクバラです。
牛バラはマエバラ、ナカバラ、アトバラと3つの部位に大きく分かれます。
このサンカクバラは、マエバラの肩ロースとナカバラの間についている4-5Kgくらいの部位です。

焼肉屋で特上カルビといえば、多くはこのサンカクバラです。
やわらかい極上のお肉が、厚い脂肪と固い筋のなかに隠れています。
値段的にもとても高価になります。

さて、今回も動画でお届けします。

あ、今日は寝ぼけてたのと、包丁を研ぎ忘れていたので、全般的にヘロヘロです!

サンカクバラ その1

サンカクバラはマエバラというバラ肉についているブロックです。
今回はすでにマエバラからブリスケと呼ばれる部位を除去しています。
サンカクバラは画像手前がナカバラとの切断面、右側が肩ロースとの切断面です。

[動画ありません]まず体内側からゲタカルビをはずしていきます。また表面に残った筋を取り外します。

体内側のスジと脂肪を除去したら、ひっくり返して、体表側の処理に移ります。

サンカクバラ その2

体表側の脂肪とシルバースキンと呼ばれる固い筋を除去します。サンカクバラは厚切りのカルビになるので、このシルバースキンをきちんととってください。
その後手前から大き目のカルビ冊を2つ取ります。のこりの部分は肩ロースサブトンとの切断面です。カルビというようりはロースの食感と味のするカルビ冊が取れます。

サンカクバラ その3

カルビ冊を取ったら、焼肉用にカットしていきます。画像手前がもっとも霜降りの入る部分です。真ん中は、すこし赤身がかってきます。販売単価やお客様の注文に応じて組み合わせて盛り付けてください。

次回はこのサンカクバラを利用して、原価計算と商品作りの基礎をご紹介します。

なぜあの偽装はおきたのか。

皆さんもご記憶に残っていると思われる代表的な産地(格付け偽装)に、

1:船場吉兆偽装事件(2007年)
佐賀牛にも関わらず但馬牛・三田牛と偽っった産地偽装

2:飛騨牛偽装事件(2008年)
規格外の牛肉や馬肉などを飛騨牛と偽って偽装し販売

3:但馬牛産地偽装事件(2009年)
ある焼肉店が実際には20%程度しか但馬牛を使用していなかったため公正取引委員会から排除命令

*ミートホープは論外。

上記に出てきた但馬牛(兵庫)・三田牛(兵庫)・飛騨牛(岐阜)をはじめとして、有名な松坂牛(三重)、
米沢牛(山形)、 前沢牛(岩手)、近江牛(滋賀)などが黒毛和牛の最高級品として有名なブランドです。

全体 肉用種 乳用種
頭数 2,922,200頭 1,889,200頭 1,033,000頭
地域別百分率
北海道 18.30% 9.83% 33.79%
東北 14.28% 16.37% 10.45%
北陸 0.83% 0.60% 1.26%
関東・東山 11.57% 7.62% 18.80%
東海 5.10% 3.95% 7.20%
近畿 3.17% 3.68% 2.23%
中国 4.81% 4.34% 5.68%
四国 2.42% 1.51% 4.08%
九州 36.64% 47.68% 16.45%
沖縄 2.89% 4.41% 0.12%

上表は地域別の肉用牛の飼育頭数です。
これをさらに各県別の飼育数比率で見ると(肉用種のみ)
岩手 5.20%
山形 2.31%
岐阜 1.30%
三重 1.66%
滋賀 0.61%
兵庫 2.28%

となります。
しかも(たとえば)兵庫で生産されるすべての黒毛和牛が、4-5等級ではないですから、実際にはもっと少ないはずです。鹿児島(18.52%)や、宮崎(14.11%)、佐賀(2.59%)をはじめとする九州は肉用種のほぼ50%を占めるのですから圧倒的に少ない数字といえます。

これが偽装の起きた背景です。
有名ブランドで高価なのに供給量が極めて少ない。
こうした問題はもちろん肉だけの問題ではありません。
ですが、日本人に特有といっても過言ではない「産地主義」がもたらした問題かもしれません。

食肉王検定:牛肉への勘違い。 そしてなぜあの事件は起きたか。

さて本題に入る前に少しお肉について勉強しておきたいと思います。

下記図は国産牛の区分です。農林水産省畜産統計にもとづいていますが、学問所の解釈です。
皆さんの口に入る可能性のある国産牛は大きく肉用牛と乳用牛に分かれます。
肉用牛は生まれたときから食肉用として肥育している牛です。
乳用牛は始めは採乳用として飼育しており、その役割が終えた牛を最肥育したものです。超激安スーパーや業務用のミンチなどで利用されます。ここでは乳用牛については以後無視をします。


肉用牛についてのみこれからお話をします。
肉用牛には大きく肉用種と乳用種に区分されます。
肉用牛=肉用種+乳用種(区分1)
ここで乳用種とは、先の乳用牛とは異なります。種としては乳用牛と変わらないのですが、乳の出ないオスなどをはじめから肉用に育てているものです。*区分上、牛なのか種なのかはつど確認してください。

肉用種=黒毛和牛+褐毛和牛+その他(短角和牛、肉専用種、無角和牛など)
乳用種=ホルスタイン種他+交雑種

*交雑種とは一般的に肉用種のオスを乳用種のメスに掛け合わせて誕生した牛です。

ここまではよろしいでしょうか。

次にこの肉用種と乳用種という肉用牛は日本にいったい何頭いるのでしょうか。
下表をご覧ください。

  全体 肉用種 乳用種
頭数

2,922,200頭

1,889,200頭 1,033,000頭
地域別百分率
北海道 18.30% 9.83% 33.79%
東北 14.28% 16.37% 10.45%
北陸 0.83% 0.60% 1.26%
関東・東山 11.57% 7.62% 18.80%
東海 5.10% 3.95% 7.20%
近畿 3.17% 3.68% 2.23%
中国 4.81% 4.34% 5.68%
四国 2.42% 1.51% 4.08%
九州 36.64% 47.68% 16.45%
沖縄 2.89% 4.41% 0.12%

肉用牛(全体)は2,922,200頭です。
そのうち、肉用種は1,889,200万頭(64.6%)、乳用種は1,033,000万頭(35.4%)が飼養されています。
同じ等級でも肉用種は乳用種は値段が高い傾向にあります。そのため、スーパーなどの量販店ではホルスタイン種や交雑種などの乳用種が多く流通している傾向があります。
百貨店や専門店などでは肉用牛が多く取り扱われている傾向があります。
この肉用種ですが、1,889,200万頭のうちほとんどが黒毛和牛(95.8%)なんですね。
黒毛和牛が日本でもっとも頭数の多い牛ということです。

つまり「黒毛和牛専門店は普通のお肉屋さん」なんです。

勘違い1:黒毛和牛は高級品だ。
「黒毛和牛専門店は普通のお肉屋さん」なのに黒毛和牛はなぜ高級品というイメージがあるのでしょうか。
それは実は等級というものに答えがあります。

最高級というと皆さんA5とか5等級って聞くとおもいます。霜降りも鮮やかな5等級や4等級は日本人の感覚にマッチして高く取引されています。黒毛和牛のほぼ50%がこの4~5等級に格付けされるほど肥育されるのに対し、乳用種はほとんど格付けされません(この格付けの比率については後日検証します。)

これは黒毛和牛が改良を重ねて最高級品が出やすいことにあるのですが、
一方では、乳用種は子牛の値段が安く、テーブルミートして流通させるため、肥育を早めに切り上げて安く仕上げるという背景もあるようです。事実、乳用種でも5等級が出ないわけではありません。

4~5等級が黒毛和牛である可能性がもっとも高いため、黒毛和牛=最高級のイメージが
ついたのでしょう。
ただし、黒毛和牛といっても約半分が3等級以下なのです。
ですからかならずしも黒毛和牛=最高級ではありません。

勘違い2:ホルスタイン種は臭い。
ホルスタイン種ときくと、臭いのでは?という方が結構いらっしゃいます。
このホルスタイン種はじつは肉用牛と乳用牛のそれぞれに区分される場合があります。
問題なのはこの乳用牛としてのホルスタイン種が流通し、消費者が口に運んだときにあります。
乳用牛が牛肉として流通する場合、一般的には長期間 採乳用として飼育されたものです。
そのため、筋肉が硬く、血のにおいが濃い(科学的に証明できませんが)ケースがほとんどです。
しかし、肉用牛としてはじめから食肉用に育てられた、ホルスタイン種や交雑種は、ほとんど臭みは
ありません(*ただし感覚的に肉用種よりも乳用種のほうが血が濃い感じはします)。

勘違い3:松坂や神戸、近江は牛飼育が盛ん。
松坂牛や神戸牛そして近江牛はよく日本3大和牛銘柄といわれ、最高級品としてあがめられています。
そのため、これらの地域では牛肉生産が盛んなように思われる方もいらっしゃいます。

これらの牛は、もちろん黒毛和牛で肉用種に区分されます。
しかしながら表1でみると、近畿地区は、肉用種の飼育において全国の3.68%足らずです。
有名なのに、牛はいない。
だから偽装が起きたのです。

さてとりあえず今回はここまで。
次回は「なぜあの事件は起きたか」です。